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( 1 ) (1) Tau Tao Tai タウ・タオ・タイ ・・・おののく魂はいつしか鎮められていく いつのころからだろう? わたしは迷ったときや決断を迫られたとき,こころに 呪文めいたメッセージを唱えるようになった。 タウをもって,タオにしたがい,タイをつくしぬく。 たえずここに在るオノレをしんじ,まきおこらんとするウネリに命運をゆだね, ひたすらアランかぎりの生をそそぎこむ・・・といった意味あい。 いまもその余韻は,みずから思い定めたとはいいながら,ざわついてしかたない 胸のうちを落ちつかせてくれる。 そう・・・すべて,これでいいのだ。 なんぴとも善し悪しを抜きにしては渡っていけぬというのなら,世間に蔓延る いかなるシガラミもあるべくしてあるもの,一切かまわないではないか。 あるがままに,オノが信ずるところへ向かっていくだけのことだ。 はっきり覚悟をもって意識したのは, 13 年まえ,真子とさいごに逢ったおり。 「あなたにはちゃんと・・・命をかけて愛してくれるヒトがいるんだもの」 そんな一言がなければ,すてがたい漠とした思惑が,とんでもない決心にまで たちどころに昇華してしまうことなどありえなかった。 だからといって,彼女をうらむつもりなんか,これっぽっちもない。 自死とは,いずれ至らねばならない,ほかならぬ『オレの生きる道』なのだ。 あれから幾度となく自問してきたけれど,いつだって結論は変わらない。 ながらく旅立つ日を,とおく眺めながら生きてきた。 来たるべきトキがくるまでに,持てるものをことごとく使い果たしたかった。 なにもかも燃やし尽くし,ねがわくは灰となって天地に散ってしまいたい。 まっとうしてみせる自負なんぞなかったものの,さほど悲観もしていなかった。 思ったとおり,ちかく見えてからが正念場,じつはホントの宿命の道なのだ。 しぜんとペンを握りしめ,わたしは私自身を見つめはじめた。 続きを読む
( 13 ) ( 13 ) 裕子へ 驚いたかな? 筆不精のおれが,手紙を書くなんて・・・なんかヘンだろ。 でも,浅谷さんが亡くなってから,のっぴきならない事情ができたんだ。 きょうの日をかぎりに,じつはね・・・おまえに,トワの別れを告げなければならない。 おまえがこいつを読むころ,おれはすでに,この世には・・・いないかな? それとも,虫の息になりながらも海を眺めているかな? じっさいのところは分からないけど・・・あしたになるまでには,かならずやこの世界とおさらばしているはずだ。 さいごのさいごまで・・・ホントに,ごめんな。 こんなに身勝手な振舞いをしておきながら許しを乞おうなんて,あまりにも虫がよすぎるというものだろうが,せめて自分のありのままを語るぐらいなら許してくれるだろうか? どうだろう? 正直に告げるよ・・・たとえ拒否されようとも,おれは伝えておきたいんだ。 おまえにどうあっても知ってもらいたいんだ。 なにゆえに,かくのごとき生き方をなさねばならなかったのか? おれが不器用な自分に気づきはじめたのは,ふつうに思春期のころ。 ある女性を好きになって,この人しか愛せないし愛したくないとおもった。 片想いにもかかわらず,命をかけて真剣に愛を育もうとしていた。 ところが,言うまでもなく・・・恋愛するまえに失恋してしまったんだ。 あとはもう,愛することなんかどうでもよくなって,己れのなかの非自己をことごとく無くしてしまいたい欲求にかられた。 自己を完全に占有して,だれにも左右されずに生きていきたい。 もともと孤独だったおれは,自らの哲学でさらに武装することにしたんだ。 完ペキに遂行するには,どうしても自己の実体を知らなければならない。 当然ながら,その過程で自己の本質も知ることになった。 おまえも分かっているだろう・・・ほかならぬ,ナニも持てない自分だ。 のちに振り返ってみると,そんな資質は実体のありさまを捉えるには有利だったのかもしれない。 実体とはナニか? 真に存在するもの,今この瞬間にも実在しているものである。 ... 続きを読む
( 5 ) (5) 33 歳のとき,予定外の医局人事があり,東京都内のS病院へ出張しなければならなくなった。 いくつかの事由が重なってのこと・・・直接には同期の循環器医師が二人とも拒否したので,意思を示していない私に白羽の矢が立ったのだという。志願こそしなかったが一度は東京で暮らしてみたいと思っていた。それゆえ私にはさほど苦ではなかったものの,当然ながら嵩子との半同棲生活は一旦中断を余儀なくされてしまう。 ふと怪しむ・・・あのときの私は,限られた期間とはいえ,金沢から遠ざかることをなんと捉えていたのであろうか? 東京行きを自ら希望しなかったのは嵩子がいたから・・・それは疑いようもない事実であった。しかし,派遣の決定にさいして異議を唱えなかったのは,別の意味で彼女を意識していたからではなかったか? 内なる歪みの原因を見極められずにいた私は,強制的に引き離されるような任務を与えられて仕方がないことだと彼女に釈明しつつも,心の奥底ではむしろ歓迎していたのではなかったのか? 幾度となく自身に問いただす・・・正直いって,そのたびに心苦しい溜め息を漏らさざるをえないのだ。 こんかいは近隣地域への異動ではなかったため,機会を逸せずに借り続けていたアパートを解約することにした。明くる年には金沢へ戻ってくるにせよ,もう手狭な1 DK で生活する気がしなくなったのである。 慣れ親しんだ住居をついに引き払うことになり,9月末の一週間はロクすっぽ眠りにつく暇さえなかった。おそくに帰ってきては引越しの支度にあけくれていた。とはいっても私は自分のものを整理し処分するだけであって,大部分の荷造りは生活用品などもふくめて嵩子がやってくれたのだが。 引越し前日の9月末日土曜日,準備完了の打ち上げを兼ねてアパート最後の日を締めくくろうと,歩いて数分の小さな焼肉屋に出かけた。 老夫婦が営むその店は,古臭いのみならず設備も不十分で,近くの住人でなければ食べに来ないようなところではあったが,こぢんまりとした素朴な感じがとても気に入っていた。とくに 風呂 あがりにやって来て,カウンターで喉の渇きを癒やしながら,焼けたばかりのタン塩を食べるのが嵩子も私も... 続きを読む