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(3) 私に,父親はいない。いや,記憶に残っていないというべきなのだろう。母は 13 年前,天に召されていった。 お袋が亡くなった年の 10 月,何もかも清算するつもりで国立金沢病院,現在の金沢医療センターを辞し,一般病床 672 床を有する,いわゆる総合病院のK病院に就職した。 その翌年の1月,裕子はナースとしてK病院に中途採用になり,立ち上げられたばかりで手薄だった救急部で働くようになった。それで当直のときや急患を診るさいに,往々にして一緒に仕事をする機会があったのだ。 言うまでもなく,私のほうが病院職員として先輩であるとは思ってもみなかったし,ましてや彼女にいかなる事情があるのか知るよしもなかった。 私が内科系当直を,裕子が凖夜勤務をしていた,ある夜のこと。 当時から時間外受診の患者が少ない日は滅多になかった。その日も廊下のあちらこちらに患者が待っていた。 午後5時過ぎより始まった診療がようやく一段落したのは,午後9時をとっくに回って 10 時ちかくであったろうか。溜め息をつき,診察デスクに目を落としてボンヤリ座っているときだった。 「おつかれさまでした。やっと途切れましたね」と声をかけられる。振り向いた先には,やさしげな準夜ナースの笑顔があった。「日中は,心カテされていたんですか?」 「午後から3例。それは,大したことなかったんだけど・・・おとついの夜, AMI ,心筋梗塞の緊急カテがあってね。それに,きのうはきのうで患者が急変して病棟に呼ばれたから,どうも疲れが抜けきっていないのかなぁ」 ちらっと斜め前に立っていたナースを見上げる。はじめて意識して会話している相手のことが気になった。屈託のないスマイルに熱意のようなものが宿っている。 「君は,まだまだ力が余っていそうだね・・・」 「そうですか? きょうは,特別ですから・・・」 「とくべつ?」 「あの・・・わたし,ここに勤める以前は,国立病院で働いていたんです。だから,先生のこと,知っているんです」 彼女がいきなりK病院にくる前のことを明かしたのは意外だった。けれど,オドロキよりも親近感をおぼえ,同窓生に出会ったような心持ちになって返答した。 「ホント! どこにいたの?」 「東2です」 「ひがし2?・・...